第1回『現場で学ぶ和僑会~新利實業有限公司 工場見学会 』

第1回『現場で学ぶ和僑会~新利實業有限公司 工場見学会 』 2008/04/24

【開催日時】2008年4月24日(木) 見学会13:00~17:00  懇親会18:00~21:30 【訪問工場】新利実業有限会社(SOLID) 【参加者達】クオリティマインドの林氏(ホスト役)と一般参加者の計19名。 【当日の大まかな流れ】 1. 原田総経理の自己紹介 2. SOLID会社紹介 3. 工場見学:受付→総務→製造ライン→EMS設備→梱包ライン→倉庫。 4. 中国人若手起業家テイ(丁)さんの紹介 5. 事前に提出済みの参加者質問に対する回答 6. 懇親会での質疑応答

  • 抑えられない期待

当日11時半、新時代ホテルのロビーに集合。

今回は見学会の受入先に敬意を表す意味でドレスコードを設定。参加者の皆様、お願いしたとおり会社の制服orスーツで参上。

受入先が手配してくれたバスは12:10に到着予定。時間通り到着するかどうか、事務局側の心配は杞憂に終わった。1分の狂いもなくバスが登場! バスの運転手に聞いたところ会社の指示で早めに到着、時間ギリギリまで近くで待機していたとのこと。 しょっぱなから期待を裏切るこの感動! 一同、これから始まる感動夢工場の演出に益々期待を膨らませた。

バスでの移動時間40分を利用して、参加者同士、自己紹介タイム!

皆の発言、目の輝き、メンバー全員やる気に満ちた人達ばかりだ!!

まさに少数精鋭のメンバー達。 これから皆、何を見て、何に感動し、何が変わっていくのだろう?!

我々事務局の期待も膨らむ一方だ!!!

  • カウンターパンチ

SOLID到着。 先ず2階受付に通される。

ここは明るく綺麗なショールーム。ここでまずビックリしたこと。 それは部品の購入価格と実績までが惜しげもなく情報公開されていたこと! そして訪問客の属性・実績などがあらゆる表やグラフを駆使して壁に張り出されていたこと!

予定時刻の13時5分前。本日の主役、原田総経理が登場! とにかく“スゴイ人”だと聞いていたので、さぞかし「迫力ある風貌」と(勝手に)想像していたのだが。。。 実際お会いした原田様は小柄で温和そうな方。簡単な挨拶を済まし会議室に移動。

席に到着するやいなや、 まずは受付でうけた質問事項「写真撮影は大丈夫ですか?」に対する答え。

「SOLIDには隠す事は何も無い。写真撮影、大歓迎!」

一同ニンマリ。^^) と同時に、「この会社、ハンパじゃなくスゴイかも・・・」 高まる期待と興奮に皆、緊張と喜びが混ざり合った複雑な表情をしていた。^^;

こうして感動劇場の幕は上がった。

  • 原田総経理の自己紹介

海外駐在暦35年。 もともとSONYの開発設計部門で電気設計をしていた。 32歳で自ら希望し製造部門に移った。皆が嫌がる製造部門。そこにチャンスを見出した。 製造部門を知りつくしたエンジニアこそ、「Management of Technology 」が実現できる!

SOLIDを初めて訪れたのは2001年。まさに売却される寸前だった。 従業員にも、オーナーにも、そしてSONYにも見放されていた工場だった。

「これこそダイヤの原石!」

直観が働いた。

「6社再建してきた自分なら再建できる!」自信があった。 自分にしかできない仕事がある。見込みもある。皆が完全放棄した会社を甦らせれば感謝もされる。

引き受ける事にした。 この7社目の再生事業を人生最後の大仕事と捉えている。

今、総経理として会社の仕事はしていない。 SOLIDの決まりごと。 実務の時間は部長:2時間/課長:4時間/係長:6時間。 残りの時間は将来の夢や目標に向けての勉強と自己投資に使うこと。

  • 事業紹介

職員は3000人。日本人は原田総経理1人。

制服のベストは2種類。1つは白色で管理職。もう1つは青色でワーカー。これは差別化ではなくメリハリをつける為。

原田総経理の考え方。

「20代は人に使われ、30代は人に任せてもらい、40代は人を使い、50代は人を教育し、60代は人に譲る」

キャリアプランと生き様をこの理念に沿って教えている。

連日、大手企業から訪問者がある。よってSOLIDは「企業大学」とも呼ばれている。 商品は、主に音響設備。仕向け地はアメリカ、中国、インドがメイン。日本向けはゼロ。1日90本のコンテナを世界に向けて出荷している。他社では決してマネ出来ない。技術の問題ではなく場所の問題。スペースがあるからこそ出来ること。

原田氏の着任直後、ドラスティックに生産品目を変えた。 当初はウォークマンやラジカセなどが中心だった。しかし「市場は縮小・淘汰」は容易に想像がついた。ホームシアター用の音響設備をメインにした。株主や社員を説得した。結果、皆に「天才」「神様」扱いされている。(笑)

原田氏着任前(2001年当時)の組織図を見せてもらった。 当時のTOPはアモイ出身の華僑。彼は「社員=使用人」という考え。昔の経営者、個人事業主の域を出られなかった。企業人として企業経営ができる資質がなかった。

「尊敬できない人の下で組織はゼッタイ機能しない!」 「危機感のもった人/会社でなくてはならない!」

そう考え、組織改革を行った。今まで複雑な構造だったものを可能な限りフラットでシンプルなものに変えた。

前の経営者が連れてきた血縁幹部を全て排除した。当然その反動で何度も訴えられた。でも原田氏も徹底応戦(控訴)。信念もお金も無い人達は粘り腰など全く無かった。原田氏はこうして、実績を積み重ね、信頼を勝ち得ていった。

信頼と尊敬は全く別物。尊敬には、実績と行動力が必要なのだ。

  • 経営方針

「プロ意識(1)を持ち、何事も自分の為と考え (2)、前向きに(3)仕事に挑む事」

(1) 給与の6倍以上の成果を挙げる事 (2) 決して会社の為に仕事はするな!自分の為じゃないと頑張れない、自分の事なら一生懸命やれるもの。 (3) 苦しい時こそ明るくなれ!

  • マネージャーの心構え

・ 部下は見えても部下には見えない→コミュニケーションを取る際は自分の喜怒哀楽を明確に示せ! ・ 経験的手法を用いず独自性(=only one)を追え! ・ 目的目標を明確に!→理解していない(させていない)と、やっている意味・意義が分からない。 ・ 社員の自己成長を願え! ・ マネージメント結果は感謝心と信頼関係に比例 ・ リーダーは学歴で求めるな→素質は学歴では分からない

  • 情熱/仕組みで人は育つ

着任から2年間は全てリーダーシップをとってやった。今は何もやってない。「下に厚く、上には薄く」の給与/評価制度。給与の上限は1万元。関連企業にはどんどん社員を紹介している。訪問企業からのヘッドハンティングも大歓迎。優秀な人材から優先的に紹介させてもらっている。条件は、今、彼(女)らがもらっている給与の3倍の額を保証すること。紹介料は一切もらわない。人材が常に循環して、イイ人がさらに良いステージにチャレンジできる、そんな組織・体制となっている。

  • SOLIDの自慢

【EMC設備】 専門の検査機関にしかない設備。普通の工場には置いてない。人も技術力も二流以下の工場だった。よって資本投資をすることにした。これがあればお客が呼べる。人を雇って教え込むのでは限界がある。目標・目的達成のためにはお金で買える資源はお金で買う。要は資本の投下をどこにどうやって行うか。これを考えるのが経営者の仕事。

【圧倒的な求人倍率】 他の会社の人から見たらモデルとなる会社ということで「企業大学」と呼ばれている。しかし社員にとっては意味合いが少し違う。将来、店や会社を興したい、というスタッフが大半。だからこそ、経営や管理のノウハウを惜しみなく与えることにした。結果、学びたい人・やる気のある人がたくさん来るようになった。その意味で「起業家大学」と呼ぶ人も少なくない。

【公開採決(人民裁判)制度】 スタッフの昇給・昇進を決めるベースとなるのは753項目の質問。彼らの資質を全方向で測るため45名の裁判官(あらゆる部門の幹部スタッフ)が質問を浴びせる。無記名投票で70%以上の支持率を獲得する必要がある。これに合格すればラインワーカーでも事務職スタッフになれる。

  • 人が集まる仕組みと仕掛け

現在の求人倍率は約10~20倍。落選者は周囲の工場や関連企業へ優先的にまわしてあげてる。金をかけての宣伝・広告は一切しない。以下のような工夫をしてきただけ。

【ホームステイ】 連休などを使って原田氏自ら、国内旅行がてら地方にあるスタッフの家にホームステイをし、彼(女)らの生活/文化を体験。

【家庭報の発行】 社内報を作成したらスタッフの家族に送付。スタッフの父兄はこれを見て我が娘・息子の活躍を知り喜び、安心し、さらに応援してくれる。結果、スタッフのモチベーションも向上し、田舎から更に人材の応募が集まる・・・と、一挙両得以上の効果が得られる。。

【成長機会】 幹部は2年以上、同じ仕事をしてはいけない。希望のない者は無条件で違うポジションに配属される。成長するための機会は溢れるほどに用意してある。専門職ですらオタクにしない。マルチな能力を身につけさせる。組織体制がそのように出来ている。文句を言う人、口だけで出来ない人は即刻解雇。

【STEP UP HOLIDAY】 在職1年以上の優秀な人材は総経理自らがしたためた推薦状を付けて他社に無料で紹介する。5ヶ月間、他の仕事を外で経験させることを公認する制度。自分の適性や目標を見極めさせる為。80%は期間終了後、戻ってくる。その結果2~3倍がんばってくれるようになる。(笑)

【REFRESH HOLIDAY】 在職1年未満の人対象。旧正月を挟んだ閑散期2~3ヶ月間休みをとり、地元に帰る。郷愁の念を満足させると同時に、田舎(にいる人達)の現状のレベルとこの会社(都市)で会得した自分の(文化的/知識的)レベルの格差を思い知らせる。それに気付いた人は必ず戻ってくるし、定着率も確実にUPする。

【新入社員による人材募集】 幹部ではなく、試用期間を終えたばかりの新入社員にリクルート活動をやらせる。わずか数カ月の間に体感した、この会社の強みや魅力を自分の言葉で語らせる。そうすることで彼(女)らの出身大学の後輩や元同僚など、友人知人を効果的に募集することが可能となる。

  • 改善プロジェクト(サークル)制度

着任当初、スタッフから様々な不満を訴えられた。「不満があるなら改善案を出して持ってこい」と指示した。慣れないながらも彼らは一生懸命考え、改善案を出してきた。「食堂のメシが不味い」のいう問題も、こうして改善された。

「不満があったら改善プロジェクトを設立せよ」これがひとつの企業文化として定着した。

今は29個のプロジェクトが存在している。 このプロジェクトにより社員の自立心・問題意識・行動力が養われる、という側面がある。

当然このプロジェクト活動は、本業の時間をやりくりして対応せねばならない。 何らかのプロジェクトに参加している人は業務処理・調整能力の高い人。この活動が自らの能力向上につながる、と肌感覚で分かっている人達。 逆に何のプロジェクトにも参加していない人は「無能な人」というレッテルを貼られる。能力のある人たちは居着き、能力のない人達は居辛い雰囲気になっている。 それが良質な新陳代謝、様々な好循環を生みだしている。

  • 品質=人質

原田氏いわく「品質には、興味が無い」 品質向上のためには人質向上。人の素養・資質を向上させるための教育が何より大事。そのためには人の心の動きをよく読み理解すること。会社として上司として、どのように振る舞い、どのような組織・体制を用意し、教育を与えるべきか?その結果、彼(女)らの心が動くのか? その答えを仕組み仕掛けに落とし込むこと。様々な文化的・教育的背景をもち、思考も習慣もばらばらの人達を一つにまとめ上げるには心の動きに無関心であってはならない。会社・上司がこの点に配慮して仕事をすれば、自ずと製品の品質は良くなっていく。

  • 主体的な行動を引き出す考え方とアクション

・ 『率先模範』~中国では特に重要。上司が出来ないのに部下に「ヤレ」と命令しても部下は動かないし動けない。上司がやって・みせて・やらせてみる。この3ステップが非常に重要。

・ 社内でパソコン教室を開講している。講師は全てボランティア。「誰かに教えてもらった事は誰かに教えることが会社への貢献」と定義。それを確実に実行させている。

・ SOLIDにあるたくさんのマニュアル。原田氏自身は着任当初に1冊、管理者向けのマニュアルを作ったのみ。後は、全て従業員が自主的に作ったもの。それらのマニュアルは全て誰でもいつでも閲覧できる。数年前、当時の財務部長がSOLIDの文化を伝承するため、PPTで膨大な資料を作ってくれた。資料の名前は「卓越之路」。彼はもともと一般ワーカー。とにかく一生懸命がんばった。働いた。当時彼の給与は7500元。彼はその後、会社が推薦した先の上海の会社で総経理を務めている。給与は25000元となった。

・ SOLIDに来るベンダーは、先ず受付の女の子3人(素人)が対応。購買や技術など関連部門と取り次ぐかお引き取り願うかは彼女らの判断に任せている。つまり、彼女らに来社の目的などをうまく伝え、説得させないと交渉のテーブルにつけない、という仕組み。

ちなみに彼女達の月給は700元。毎月200社近くのベンダーが売り込みに来る。実際、彼女達のフィルターを通り抜けることができるのは約70社。彼女らは素人だからこそ、より慎重になって判断する。彼女らがいるおかげで、各部署の高給取り(プロ)達の作業効率が上がる。

各ベンダーから採用した部品の価格は、全てOPENにし、受付のショールームに飾ってある。

喫茶コーナーのお茶出しも彼女達が担当。訪問客による喫茶コーナーでの売上げも全て彼女達が管理。毎月の仕入れから、営業、マーケティング、宣伝広告活動まで、すべて彼女たちの仕事。これらの活動を全て“視える化”し、彼女らのモチベーションUP、能力向上につなげている。

============以下、会社(工場)内見学にて===============

  • 情報開示

購入備品の価格はすべて壁に貼り出されていた。より安く購入できる会社(お店)があれば、すぐに紹介してもらう。廃棄部品のリサイクル状況についてもすべてOPEN。社内全体でムダを排除する活動を起こし、その収益は社員に福利厚生の改善という形で還元される。よって社員の積極性やモチベーションの改善にもつながり、バックマージンによる汚職なども防げるという仕組み。

  • 組織戦略プロジェクト

前述した改善プロジェクトの紹介や進捗状況がすべてグラフや表で壁に張り出されている。一番長いプロジェクトで4年続いている。係長の時ぐらいから組織拡大の訓練をさせる。その中で業務処理能力の向上とともに関連部署・担当者間の調整能力も身につく。出世をしていく上でジェネラルな視野、能力、バランス感覚は必要不可欠。他の日系企業が最も苦手とする分野である。

  • 研修用マニュアルと新入社員フォロー制度

・ 各種マニュアルは閲覧自由。ベテラン社員が教える。教育専門のスタッフはいない。先月の新人が今月の新人を教えるようなシステム。新人バッチをつけている人は、バッチをつけている期間中、誰に何を聞いてもイイし、聞かれた古株社員は絶対に、その質問に対して答えなければならない、という規定。

・ 人を育てる為には「徹底的にその人を尊重する」こと。それを実践している。中途採用者の研修は3人の担当者がつく。社内制度を教える人、企業文化を教える人、専門職を教える人。 主観性を排除し、客観性を評価制度に盛り込むことで公平・公正な判断・決断ができる。責任逃れ・責任転嫁も発生しづらい。建設的な仕事が出来るので生産性も上がる。「自由は認めるがワガママは許さない」が基本的な考え方。

  • 管理の“視える化”

「不良品、不良人は一番目立つ所に置け」が基本的な考え方。 問題状況がすぐに上司、総経理、顧客に視えるようにしておけば、対策もとりやすく、関係者・責任者の危機意識も常にアップデートされる。在庫品の管理についても然り。

=============以下、会議室に戻って=================

  • 中国人若手起業家 テイさん(丁柱さん)登場

中国・日本で6つの会社(IT・各種コンサルティング・人材など)を経営されている原田氏の友人、テイさんが特別ゲストとして合流。日本の明治大学で学生向けに講演行い、飛行場からその足で駆けつけてくれたとのこと。

テイさんは数年前に営業目的でSOLID社を訪れ、原田氏はテイさんの人間性に惚れ、それから2人の付き合いが始まった。

テイさんも会社を興した直後で、社員の管理に悩んでいた時だった。テイさんは原田氏の管理手法に感銘を受け、自社の幹部スタッフの教育面でひとかたならぬ協力をしてもらった。結果、社内の雰囲気だけでなく、経営者として自分自身の意識や考え方、行動の仕方も変わった。

一番、影響を受けたのは「リーダーの能力」に関する話。 リーダーが組織をまとめるには、3つの方法がある。 それは【妥協、強制、統合】。

【統合】というのは、その環境/条件で関わる全ての人達が幸せになる方法を見つけ、選ぶこと。それが出来るのが良いリーダーの条件。3年前にこの事を学んでいれば会社はもっと大きくなっていたはず、現在も絶えず原田氏から勉強している、とのこと。

  • 質疑応答(事前に送付済みの質問に対する回答。林さんの模範解答付き)

1.スタッフの発想力を高めるために、もっとも必要なものは何か。 林:発想力が評価される仕組みをきちんと作り,OJTで鍛える.簡単な例では,改善提案制度も,発想力(問題発見能力と解決能力)を促進する制度になりうる. 原田:先ず求める発想力を明確にし、それに対する教育と自身の率先模範の姿勢が大事です。

2.スタッフの行動力を高めるために、もっとも必要なものは何か。 林:給与制度の中にプロセス評価分をきちんと入れ,評価基準を明確にしておく.これもOJTで鍛える. 原田:先ず求める行動力を明確にし、それに対する教育と自身の率先模範の姿勢が大事です。

3.華南地区では、地方からの出稼ぎ労働者が多く、仕事に満足していたとしても、家族から「地元に帰っておいで」「地元で結婚しなさい」という親族の要請で帰省を余儀なくされている社員等には、どのように接している状態でしょうか?とくに核となる社員がそのような場合になった場合どのように対処されているでしょうか? 林:無理に引き止めても双方にとってメリットはありません.事前に社員の希望を把握しておく必要があります.例えば,3年後,5年後に自分がどうなっていたいのか毎年書かせます.これで5年後に田舎に帰って結婚したいと書いている社員には,5年間きちんと働いてもらえば良いのです.次々と人が育つ仕組みと環境をきちんとしておけば,核となる人間でさえやめても大丈夫です.むしろナンバー2,ナンバー3にチャンスが回ってきて組織が活性化します. 原田:個人的事情を会社が規制する事は出来ません。例え会社に一週間しか留まらない社員が居たとしてもその社員との出会いを大事に思い、少しでも良い環境を学ばせ、それらを地方や家庭に持ち帰らせ、彼等がすこしでもそれらを転用してくれるように願うしかありません。又、核となる社員が居なくなっても困らないように普段から次の人物養成をしておく必要があります。それには社内に教育環境と部下育成環境を充実させておく事が必要となります。

4.原材料高騰が続く中、中国国内材料を使用する場合もあると思います。原材料を輸入から中国材料に切り替えたことによって、あらたに発生してしまった問題(例:アルミ板のキズ等)本来、輸入材料を直接仕入れを行った場合と、中国国内材料に対してメーカーを教育して材料の品質を上げる、もしくは、自社内で不良部分のした処理をして使用できるようにする前工程をいれる場合のコスト比較をして検討すべき内容なのでしょうが、これがなかなか簡単に比較ができません。何かよいアドバイスいただけないでしょうか? 林:コスト比較が簡単にできない理由が良く分かりません.以前アルミ電解コンデンサを中国国内調達に切り替えるために,工場監査に出かけた事があります.この時は工場の品質管理に関して電解液の配合以外は特に心配な点はなかった.電解液の配合はこの工場にとって最重要のノウハウであり,作業指導書にも品質記録にも出ていない.作業者も一人にだけ教えるのではなく,二人に別々に教えて二人の調合した物を混ぜて始めて完成,という徹底振りでした.そこで電解液の調合ロットごとにライフ試験をして合格したロットのみ出荷OKという条件で見積もりをしてもらいました.これで簡単にコスト比較が出来ます. 原田:厳しい発言になりますが、事前に充分なコスト比較もないまま切換えを行う事に間違いがあります。何事も計画段階で80%の結論が決まってしまいます。計画段階で明確な目的と目標があれば例え途中で障害があったとしても諦める事なく物事を進められる筈です。

  1. 工員さんたちのモノ作りに対するモチベーションを高めるために、心がけていらっしゃることはありますか? 林:私のお客様に作業員の離職率の高さに悩んでおられる方がいます.社長さんは給与,福利厚生で圧倒的に近隣の工場より差をつけており,それでも辞めてゆく作業員に手の打ちようがないと嘆いておられます.私の意見は,仕事のモチベーションは仕事で与えましょうということです.それぞれの作業に対して期待する品質レベルと作業効率を明確にし,作業者の到達レベルを見えるようにする.そしてそれが達成できた時にきちんとご褒美を上げる.給与と福利厚生だけでは,マズローの要求レベルのうち安全・安定の要求と集団帰属要求の下位要求しか満足できません.仕事を通して他者から認められる要求,自己実現要求を刺激すれば作業員のモチベーションは上がると考えています. 原田:モノ作りは“人(自分)作り”という教育と環境を定着させ、本人にそれをしっかり自覚させています。

6.原田様日本人一人に対して、現場は全員中国人とお聞きしていますが、日本人のものづくりの姿勢を現地スタッフに理解してもら為に必要なことは、何でしょうか? 林:まずは徹底的に上級職員に教え込むことです.そして上級職員が配下の職員・作業者に教える仕組みを作る.むしろ教えなければならない仕組みを作る.原田さんの朝礼勉強会がこれに当たると思っています.そしてその背後には部下の育成ができない幹部は評価されない制度が作ってあるのだと理解しています. 原田:自身が求めるモノ作りの姿勢を明確にし、それに対する教育と率先模範の姿勢が重要です。

7.現地の人に任せて組織を運営する為に一番重要なポイントはズバリ何でしょうか? 林:幹部の育成 原田:“信頼関係”です。(信頼関係はリーダーの実績・行動力・前向きな姿勢の上につくられます)

8.日本人1人で、後は全て中国の方という事で色んな「仕組み」を作っていると思い  ますが、これはお薦めの仕組み(=ルール、工夫)等あれば、教えて下さい。 林:一番重要なのは,人がどんどん育つ制度と環境を作り上げることだと思います.これが出来上がっていれば,幹部が離職するのも怖くなくなります. 原田:人は皆基準が異なる事を正しく理解した上で皆に正しく理解される仕組み作りを行っています。

9.現場教育においての行動能力の評価基準の策定について質問があります。 現場の行動能力は各現場の長でないとわからないことが多々あると思います。よって、評価基準を作るときにはより現場に近い所をマネージメントする人が策定すべきかと思いますが、現場に近い人間であればあるほど、評価する立場よりむしろ評価される側にいる人になると思います。組長さんなどは自分の組を評価しながらまた自分も評価されるという立場ですが、実際にこのような行動能力の評価基準はどのレベルの方がお作りになられているのか?またその評価基準が今の現場の状況にマッチした基準になるためにはどのようなプロセスを経て策定されべきか?原田様の工場で何か工夫はされているのか?この辺を勉強したいと思います。 林:評価基準は会社がどういう従業員に育ってほしいかを定義することなので,経営者や経営幹部が決定すべきと考えています.当然経営者や経営幹部は5ゲン主義にしたがって,現場の実情を理解しておくことは必要です.しかし現実こんなもんだから,この程度の評価基準にしておこうという考え方では人は育ちません.会社の能力も現状にあったレベルから成長できません.人事制度や評価制度は人を育てて会社の業績を上げるための制度です. 原田:弊社に評価制度は存在しません。社内には皆が優秀で当り前という文化があります。万が一ダメな人物が居たら皆でそれを是正し、それでも良くならなければ“異物”と判断し、皆で徹底した排除を行う文化と環境が定着しています。

9.製造部の効率と営業部の要求は往々にバッティングするものなのでしょうか。 林:バッティングしている間は一流(世間からの評価という意味ではなく)企業とは言えません.全部署がお客様の方を向いていれば,バッティングする余地はないと思っています. 原田:当然バッティングはあります。しかし結論は双方の最終目的を以って調整するようにしています。

10.人を育てすぎるとノウハウを持ち出される心配がありませんか.金型、設計図、  サンプル、仕入先、顧客リストなどの営業秘密の管理方法はどうしていますか 林:倫理面での育成が不十分であれば当然の結果といえるでしょう.人を育てても育てなくてもノウハウを持ち出す者はいます.人は全員「良い子」ではありません.中には悪意を持った者,悪意になびいてしまう者もいます.悪意になびいてしまう弱い心を持った者には,仕事に対する誇りを植えつける事が重要です.初めから悪意を持っているものは採用しないのが一番ですが,これも完全ではない.お客様から預かっている設計情報などは,簡単に持ち出せないようにしておく必要はあると思います.またよそに持ち出してよそが活用できるようなノウハウは本当のノウハウではないと思います.本当のノウハウはノウハウを作り続ける企業文化にあると思っています.これは盗むことはできません. 原田:現在の弊社に企業秘密と称するものは存在していません。会社がノウハウ持ち出しを規制する、と言う事は社員の立場から見れば魅力のない会社という事になり、必要以上に規制する事は優秀な人が集まらなくなります、規制する前にその双方を熟慮した上での判断が重要です。

11.工員さんにとってはどの工場で働いても同じで、給料が高いか低いかだけじゃ  ないのでしょうか、どうすれば工員さんを惹き付ける事が出来るのでしょうか 林:5.の質問でほぼ回答ができていると思います.特にリーダ層以上の若者は,自己成長・キャリアアップ要求を強く持っています.「会社に対する忠誠心」は求心力にはなりませんが,「自己成長意欲」を求心力にすることはできると思っています. 原田:仕事はお金と自己達成感を求める場所という意識改革教育と環境作りを頻繁に行っています。

12.人材教育は大事であると言うのは理解できるのですが、同時に人材流出が  止まらないという現実もあります。実際は「モノ」や「マニュアル」の改善に重きが  置かれると言うことは無いのでしょうか。つまりより人が辞めない日本の工場と  比べるとやはり人材教育の重きの度合いは低くなるのではないですか。 林:もちろん昔の日本のようにこの道一筋で働いてもらうことは不可能です.しかし1年ないし3年のスパンで働いてくれる作業員はいます.そのため一人ひとりのばらつきを抑えるため,作業を標準化する,機械化をするということは重要です.むしろ昔の日本のように,作業一筋で行員さんを飼い殺しにしている方が人材教育にまじめに取り組んでいない結果だと思えます. 原田:もちろん人材は大事です、同時に企業には常に新鮮な環境が必要です。弊社は人は常に入れ替わるべきという社風が定着しています。社員の流動率が高い事で社内には指導&教育環境とマニュアル化が非常に発達しました。

13.原田さんの原則は「性善」的ですか「性悪」的ですか、またそれは制度の中に  どの様に反映されていますか 林:私は基本的に性善説です.しかし中には悪の心を持った者,弱い心を持った者がいます.この人たちが悪い事が出来ないようにしておくことは必要です.例えば出荷品の中に故意に不良品を混ぜたとしか思えない客先不良が発生した事があります.組長の話によると,退職したいのに辞めさせてもらえない者が故意にやっているのだと言います.私に言わせると,不良品がいつまでも現場においてある.簡単に出荷品の梱包が開けられる様になっている.ということがそもそもいけないのです. 原田:原則は“性善説”です。

14.態度が悪い(協調性が無い)が成績が良い(自分の範囲の仕事はきっちりこなす)  従業員はどう対処しますか 林:本来一人で成果が出せる仕事というのはそんなに多くはないはずです.その組織がどういう形で成果を出しているかによって評価をすれば良いだけです.一人ひとりの成果の合計で回る組織であれば,協調性のない人でも役に立つわけです.しかし普通は仕事はそれぞれの成果の掛け算のはずです.そういう成果の出し方をしている組織には協調性のない人は必要ないでしょう.短期的に彼の成果が必要であっても,長期的に見れば足を引っ張るはずです.人事制度とか処遇制度は人を活用して組織の成果を最大にするための制度です.人がどう行動したら組織の成果が最大になるかを考えて処遇を決めれば良いだけの話です. 原田:そのような人物は人と人との秩序で成り立つ組織にとって害となる最悪の人間です。弊社はどんなに優秀な個人能力を持っていても他人との協調性のない人間は即刻解雇します。

15.中国でビジネスしている日本人は日本人的な感覚で言えば「中国人は信用できない」  と感じる部分があるはずです。それを反映した制度はありますか 林:悪意を持った者,弱い心を持ったものは日本人の中にもいます.また仕事の能力が足りていなくて仕事が信用できない人も日本人の中にいます.そういう人たちできちんと成果を出すのもマネジメントの仕事です.制度・仕組みは3層に作り上げるべきである,というのを最近勉強しました.まずはマニュアルなどできちんと作業できるようにする.次の段階はマニュアルどおり作業をしなければならない仕組みを作る.第三段階はインセンティブです.この場合マイナスのインセンティブもありだと思います. 原田:そんな奇妙な制度はありません。弊社は中国人による中国人の為の制度を運用しています。

16.給与や給与以外のインセンティブのメインは能力給的ですか、年功序列的ですか。  またそれはどうしてですか 林:年功序列給与は実力主義の社会の中では通用しないと思います.ただ勤続年数が長いだけで高い職位につけたりすると,その部下が働かなくなる,優秀な物ほど失望して辞めて行きます.処遇は能力に対して公平であるべきだと思います. 原田:若い人に頑張ってもらう為に“上に薄く下に厚い能力給”を導入しています。

17.仕事に対する自己の達成感が個人の利益(給与)に明確に反映させることは難しいと思います.特に経営数字を全ての従業員にオープンにした場合,その数字から来る期待と現実のギャップが発生してしまうと思います.本社から派遣されている現地法人の責任者としては,本社への利益貢献が必要です.自由に利益配分ができないのが悩みの種です. 林:できるのかどうかはわかりませんが,私ならば利益配分の大枠について経営者から合意を取り付けてその範囲内で自分のフリーハンドを確保しようとするでしょう.例えば利益の1/4は資本家に還元.1/4は内部留保.1/4は従業員に配分.1/4は社会貢献.この配分比率にまで文句を言う従業員がいれば止めてもらうしかない(笑) 原田:本社・工場・従業員・株主の双方が満足する“統合による調整”を行うのが正しい選択です。

============以下、懇親会(食事会)の様子===============

SOLIDを経営し始めて6年間、日本人と会食するようなことは一切しなかったという原田氏。 そこにはスタッフを想い、スタッフのために全身全霊で中国に身を投じてきた原田氏の覚悟と理念、哲学を強く感じる。

そんな原田氏が今回は我々シンセン和僑会の真摯さに心を動かされ、ついに6年間の沈黙を破り、日本人との食事会へ!!

工場見学を終えても参加者の興奮は冷めやらず、むしろ益々ヒートアップ! 参加者は知恵熱に冒されながらも食事する手を止め、一心不乱に原田氏の言葉をノートに書き写す。

その参加者の熱心さに応えるかのように原田氏の舌もフル回転!

気がついたら予定終了時刻を大幅にオーバー。21時半の解散となった。

  • まとめ

スミマセン、内容が濃すぎて、「簡単にまとめる」ことに失敗しました。。m(__)m

今回、シンセン和僑会として工場見学会を企画した意図は 「百聞は一見に如かず」「座学ではなく現場で学ぼう」でした。

現場で五感をフル稼働すれば我々が日々格闘している課題や問題にヒントやアイデアを見いだせるはず!そう思ったからです。

SOLID社には、原田総経理の『職員を育てよう!成長する機会を与えよう!彼らにプラスになる事を提供しよう!』そんな想いが至る所に溢れていました。

働いている人達が皆、真剣で、それでいて硬すぎず、投げかける質問に対しては必ず笑顔で答えてくれたのが、非常に印象的でした。

この会社が「感動夢工場」「起業家大学」「企業大学」と呼ばれる所以が十分すぎるほど分かりました。

いやいや、「知れば知るほど知りたくなる」「自分が“全然知らない(分かっていない)”ことを思い知らされる」・・・そんな感じです。

まさに「百聞不如一見」だ!

今回の企画は大・大・大成功!と自画自賛しちゃってます!!^^

このレポートを読んだ人には是非一度、ご自身の目でお確かめください!

というのも実は! 我々シンセン和僑会は、ある意味“出不精”の原田総経理を、ナ、ナ、ナントっ! 08年9月のセミナー講師として引っ張り出すことに成功しちゃったのです!(^Q^)ノ

工場まで行かなくとも、このセミナーで多分に「原田式経営哲学」「原田式管理手法」「原田式成功哲学」が勉強できます!!

我々も鼻息荒くなってます!!

是非ともこのビッグチャンスをお見逃しないようお願いします!!!

シンセン和僑会 事務局 原文:松岡美紀 編集:西周和之